【感想】その気持ち、私もしってる。『螢川・泥の河』
うつむいみっしーです。
中学1年生の頃、誰かがささやいた"あの子"の陰口に「うんうん」と同意をした。
仲間はずれにされたくなかったから。ただそれだけの理由。
そしたらいつのまにか私が陰口を言ったことになり、
あっという間に私一人がクラスから孤立してしまったことがある。
天罰だと思った。
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『人波をかきわけかきわけ、信雄はむきになって歩いた。喜一の悲痛な声がうしろで聞こえた。
「ごめんな、ごめんな。もう盗んだりせえへん。のぶちゃん、僕、もうこれから絶対物盗ったりせえへん。そやから、そんなこと言わんとってな。もうそんなこと、言わんとってな」
振り払っても振り払っても、喜一は泣きながら信雄にまとわりついて離れなかった。
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宮本輝『螢川・泥の河』。
2作品あるうち、最初の『泥の河』に登場する、友達になったばかりの二人の少年。
喜一の様子を思い浮かべて、私の心がピキピキピキと悲しんだ。
喜一の悲痛な声。
知ってる。
私もいつか昔、心の中で同じように悲しく叫び謝ったことがある。
作品自体は、戦後の大阪が舞台。
働く誰もが戦争の傷跡を背負っている。
その様子が、目に情景が浮かぶくらいに描かれている。
でも、そんなことよりも、二人の少年の友情のゆくえの方が気になった。
たったさっきの数行だけで、「ああこれ以上喜一が悲しい思いをしませんように」
と願ってしまったのは、私も似た過ちをしてしまったことがあるからだな、きっと。
私はというとその後、
独りぼっちを経験し、
馴れ合いの、もろい友情も経験し、
ともだちと呼ばれる人間関係に囲まれながら、心は独りだったこともあった。
「私を友達を思う人はいないだろう。」こんな風にね。
ただ、思春期をぬけるにつれて、そのコンプレックスからも抜けられた。
いつのまにやらちゃんと、私にも友がいた。
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貧しくても、家がボロ船でも、お母さんが娼婦でもいいから、
ちゃんと喜一に友達ができ続けますように。
そればっかり願いながら読み終わりましたとさ。