嬉しさはあとからやってきた。
11月15日、仕事で訪れた池袋の展示会会場のすみっこで私は泣くのをこらえて産婦人科に電話をしていました。
「赤ちゃんは大丈夫でしょうか。」
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その1週間ほど前、
どうも体がだる重くて、風邪かと思い会社を休みました。
でも病院では風邪との診断はなく、「もしかして」と思い、ドラッグストアで検査薬を買いました。
自宅でさっそくチェック。
妊娠を示す2本線が、くっきり。
赤ちゃんができた。
わくわくする気持ちが小さく芽生えました。
ただ、正直に、振り返ると、
小さく芽生えたわくわくよりも随分と大きく、
わたしは「どうしよう」と思いました。
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2人で話し合って、子どもを授かることを望みました。
タイミングも一緒に話し合いました。
ただ、自宅でひとり、検査薬の結果を見たときには、
わくわくや喜びを飛び越えて
「どうしよう」という気持ちが押し寄せたのです。
なにがどう「どうしよう」だったのかは
今となってはもう分かりません。
もともとまだ私は母親にはなれないと思っていた気がします。
仕事のことも考えたと思います。
ふたりの時間がもうなくなるとも思った気がします。
旦那には不安よりも不満のような口調で話してしまったこともありました。
最低かもしれません。
失格かもしれません。
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整理が付かない気持ちのまま過ごしていたら、
ある日少量の出血をしました。11月15日のことです。
池袋で展示会があったので、
一日立ち仕事をしていました。
なにげなく入ったトイレで違和感に気づきます。
血がでている。
すぐにこう思いました。
『いなくならないで。』
急いで産婦人科へ電話をして、
状況を説明しました。
幸い少量でしたので大事には至らないとのこと。
「生理2日目くらいの量だったら、すぐに病院にいらした方がいいです。少量のようでしたら、お母さんへの『休んでね』の合図だと思って、まずは無理をなさらず、ゆっくり休んでください。」
時間がかかりましたが、やっと、
お腹に宿っているのは命だということ、
それは繊細で大切に育まなければいけないということ、
そして心の底ではどれだけ大事に思っていたかに気づきました。
いとおしい。いとおしい。
電話を終えて、頭の中ではっきりそう思いました。
今日はおしまい。